2007年8月24日金曜日

温泉 雪秩父



なんだかんだと言っているうちに、もう北海道はすっかり秋の気配が感じられるようになってきました。
空が高いのです。
星空も透明度を増してきました。
夕方にはジャケットを羽織って外出です。

そんな晴天の元、友人の来訪に合わせて、ニセコエリアでは私のお薦めNo.1の温泉、雪秩父へ行ってきました。
ヒラフからニセコアンヌプリをぐるりと回り、昆布温泉を抜け、パノラマラインを登って少し走るとちょっと古めかしい建物が左手に現れます。その手前はチセヌプリスキー場。
その古めかしい2階建ての建物が雪秩父なのですが、その横に画像にある大湯沼があります。
昔は間欠泉で、時々お湯が噴き出していたそうですが、硫黄の採掘時にその間欠部分を壊してしまったとかで、現在は吹き出してはいません。

硫黄のにおいがかなりしますが、この沼のまわりには遊歩道もあり、ドライブの途中に寄るにもいいところです。
その大湯沼からお湯を引いているのが雪秩父。

この硫黄泉、一度入ったら3日くらいは硫黄パワーを実感できます。
とにかく暖まる。
湯船は鉱泉と硫黄泉の2種類あります。たぶん鉱泉は自分のところで掘ったのでしょうね。
内湯はとにかくうら寂しくて、正直、一瞬ここに来たのを後悔するほど。笑
でも、露天風呂に出るとそこは、思わず『すげっ!』と声に出してしまうほどの充実ぶりです。
特に女性の方には、硫黄を身体に塗れるような準備もされているようで、北海道の情報系番組でも“美人の湯”なんて紹介されているところです。

前回入りに行ったときには、北海道の山々をトレッキングしてあるいているというイギリス人が気持ちよさそうに入っていました。
今回は、大湯沼を散策に来た中国系の観光客の皆さんがこっちに向って手を振っていました。

ゆっくりゆっくり、とにかくゆっくりお風呂につかって、心も身体もリフレッシュ。

10月になると、ニセコは紅葉のシーズン。
ぜひまったりと温泉につかりながら、秋を感じてみてください。

2007年8月16日木曜日

【ショートストーリー】デジャビュ



そのコンドミニアムには、大人が4名入れる大きさのジャグジーバスがついていた。
ウォーターテラスと呼ばれる水を循環し優雅に排出する口からは、適温となったお湯が流れだし、浴槽に流れ落ちては小さな気泡を創り上げている。
コントロールパネルにはデジタルな中にも品を感じさせるクリアブルーのイルミネーション。
CDプレーヤーと、奥行きのある音を再現してくれるスピーカーも付き、ビールよりもむしろシャンパン、夏を謳歌するような明るい曲よりもボサノヴァやジャズが似合う大人の空間がそこにある。
リビングの横、大きなガラス越しに見えるその浴槽は、見ているだけで非日常のワクワク感が心にあふれ、思わず笑みがこぼれた。

『大切な休暇の過ごし方はこうじゃなきゃね』
僕は思わずそうつぶやき、僕の横に立つ彼女を見つめた。
よほど僕の顔が嬉しそうだったのだろう、彼女もつられて笑顔を創りながら『子供みたいよ』と言って人差し指で僕の頬をつついた。

今回の休日は、とにかく二人きりの時間を過ごしたいと思っていた。
誰にも、なんの都合にも束縛されない時間。
思い返せばこの数ヶ月間、お互いの忙しさにかまけてすれ違いばかりの日々だった。
毎日数度やりとりするメールと週に1度程度、寝る前に少しだけ話をする電話だけが二人の関係を繋ぎ止めていたと言っても過言ではなかった。

やっと久しぶりに持てた二人きりの時間は、仕事の連絡にも、施設都合の朝食時間やチェックアウト時間にすらも煩わされたくはないと僕は思っていた。
コンドミニアムならお洒落なフルサイズキッチンに調理器具、食器が完備されているから、自分たちで料理を作るも出来る。食べたいものを食べたい時間に、他の人やオープン時間なんてものに煩わされずに食べることが出来る。もちろん、彼女と一緒に料理を作るという、当たり前のことだが幸せあふれる時間を過ごすという目的も達成される。

さらに、今回手配したコンドミニアムがチェックアウト日16:00まで滞在可能というのも、そこを選んだ理由の大きな一つだった。最後まで宿泊先でのんびり過ごすも良し、少し出発を早めてもう少し遠くへ足を伸ばすも良しと、チェックアウト時間に縛られなければ、明日は明日の気分で行動できる。
宿泊先以外、これと言ったスケジュールを立てずに来た今回の旅行。普段はなかなか我が儘を聞いてあげられず、寂しい思いもさせているはずなのに愚痴一つこぼさない彼女。せめてこの二人でいられる時間くらいは彼女の気分に合わせて行動してあげたかった。

予め途中のスーパーで買い物してきた食材を、二人で冷蔵庫にしまってゆく。
今はそんなことすら楽しかった。

夕食はお互いが得意なものを作り合おうと約束していた。
白を基調としたキッチンのシンク~調理スペースとIHコンロはL字型で、二人で作業をしても全く狭くなく、僕は二人の心地よい距離感を感じながら料理を作っていく。フライパンで細かく刻んだタマネギをオリーブオイルで炒めながら、傍らで調理に専念している彼女の様子を窺う。必死さを照れ隠すように微笑みながら調理する彼女の横顔が愛おしかった。

僕が作ったのは、オニオンスープに、豚肉と白菜を蒸したもの。彼女は水餃子を作ってくれた。
『オニオンスープに水餃子かぁ・・・』
お互いに、ただ相手を喜ばせようとこっそり選んだメニューは、皮肉にも汁物の重複となり、オニオンスープは明日の朝食にということで落ち着いた。
二人では食べきれないほど作った料理をつまみながら、この日のために用意した赤ワインを飲んだ。
フルーティーな中にもしっかりとした重みがある、シャトー・ル・パンで使用した樽だけを使って醸造したワイン・・・。少しほろ酔い加減が心地よかった。

片付けもそこそこに、ソファーの上でじゃれ合い、お互いの温もりを再確認し、そしてキスをした。
『ジャグジー、入ろうか・・・』
僕の気持ちはベッドルームへと一瞬なびいたが、もっとせっかくの非日常を堪能したい、普段経験できないようなことを彼女と体験したいという気持ちが勝り、彼女をガラス越しに心地よい水音を立てているジャグジーへと促した。
彼女が服を脱ぎ、ガウンを身にまとっている間に、僕はCDとスパークリングワインのハーフボトルを用意した。
リビングの照明を消し、ジャグジールームの調節がきくダウンライトだけを申し訳程度につけた。
ウォーターテラスに灯されたライトが様々な色のグラデーションを織りなし変化してゆく。
BGMはSadeのバラードにした。

4名が腰掛けられるところは、それぞれシートと噴射口の形状が異なっている。
初めは、彼女を足の伸ばせ、全身にノズルからの気泡があたるポジションに導き、僕はその横のポジションに身を収めた。
ジェットが稼働しているとそれなりに音が出るが、スピーカーの音量も十分だし、なによりリモコンで音量調節や選曲が出来るので、自分のポジションをキープしたままコントロールが出来るのだ・・・
スパークリングワインは、グラスを持ち込まずに直接ボトルから飲み合った。
はじめは交互に、やがて互いに口移しで・・・
口移しの体勢がきつくなり、僕らは別のポジションに移動し、そのまま彼女は僕の膝の上に僕の方を向いて座った。
僕らは何度も唇を重ね合わせ、きつく抱きしめ合った。

彼女は何度かスパークリングワインのボトルを直接僕の口にあてがい飲ませようとしたが、角度が悪くワインが口に流れ込まない。
その度に彼女は“どうしたの?”と優しく問いかけるように首をかしげ、一度自らが含み熱い接吻とともに僕の中に流し込んだ。
浴槽の中で浮力がつき、ややアンバランスになっている彼女を自らの身体に密着させようと腕に力を入れながら、ふと水の中を見ると彼女の膝はシートの角に乗っていた。長いことその体勢では膝が痛くなるのではないかと思い、『大丈夫?横に座る?』と聞くと、彼女は首を横に振り『大丈夫。このままがいいでしょ?』と答えた。
その言葉は『私はあなたがいいと思ってくれれば、自分の辛さなんてなんとも思わないの』と僕の心に伝わる、慈愛に満ちたものだった。
僕はもっともっと彼女が愛おしくなり、彼女の膝の下に手を添え直接角にあたらないようにし、何度も何度も彼女の唇を求め続けた。

ジェットは20分で自動的にストップし、Sadeの優しくも甘く切ない歌声が突然に訪れた静寂の中でフューチャーされた。
曲が代わり、次の曲のイントロが流れると、彼女は『あ、この歌好きなの・・・』と言って、僕の方に顔を保たれかけながら、Sadeの歌に合わせて耳元で囁くように歌い始めた。

♪ Haunt Me In My Dreams
If You Please
Your Breath Is With Me Now And Always
It’s Like A Breeze…… ♪
“夢の中ではどうか離れないで
いつもあなたの息づかいを感じているの
まるでそよ風のようだわ・・・“

僕は彼女の重みと声の心地よさに瞳を閉じて、暫しその幸せに身をゆだねた。
口移しで僕に注がれたワインが身体を巡るのがわかる。
彼女の肩口に口吻しながら、彼女を心から求めている自分が嬉しかった・・・。

**********

ジワリとした暑さとメールの着信音で目を覚ました。
左肩を下にし、腕を伸ばし、不自然にベッドの端に身を寄せた寝姿は、あたかも今しがたまで誰かに腕枕をしていたかのような体勢だった。
起きあがろうとすると、よほど長くその体勢を保っていたのか、左肩がぎこちなく固着しており痛みが走った。
『夢だったのか・・・』
僕は思わずそれが現実でなかったことに対する落胆と、心が満たされるような夢を見たことに対する誰にともない照れ隠しとが混在した独り言を漏らした。
現実に戻った一人暮らしのこの空間に彼女はいない。
少しうめきながら左肩を動かし、枕元においてある携帯をとった。
メールの送り主は、もちろん彼女だった。
朝の挨拶と、今週末の旅行への期待と喜びを示す軽口・・・
僕は思わずにんまりとして、朝の挨拶と、今しがた見た夢の話を返信した。
その夢がデジャビュのように感じられ、左肩の痛みがそれを確信へと導いていた。
シャワーを浴びながら、週末に彼女と過ごす時間に思いをはせる。
スパークリングワインはフルではなく、ハーフにしよう・・・。
顔にかかるシャワーのお湯に、僕の中にワインを流し込んだ彼女の唇の感覚を感じ、思わず笑みがこぼれた。